デジタルサイネージ広告の勝機--失敗から学ぶ、メディア開発に必要な4視点

三浦純揮(ニューステクノロジー/ベクトル)

2024-04-04 07:00

 近年リテールメディアが注目されており、それを契機にデジタルサイネージ広告も盛り上がりを見せている。しかし、デジタルサイネージ広告はユーザー/広告主の2つの視点で戦略的にマネタイズをしなければ、長くは生き残れない厳しい市場である。モビリティーにおけるメディア事業などを運営するニューステクノロジー 代表取締役の三浦純揮氏が、デジタルサイネージ広告におけるノウハウを伝える(全4回の第2回)。

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成否のカギを握るのは設置場所

 デジタルサイネージを設置する目的は、情報提供、広告、プロモーション、空間演出、イベントなど、さまざまです。広告を主目的とする場合以外でも、デバイスを導入・設置する費用と手間をかけているため、可能なら広告を集めてマネタイズできないかと考えるのは当然のことです。

 私たちがこれまで複数のデジタルサイネージ事業を展開してきて分かったのは、「デジタルサイネージ広告を成功させるには、場所の選択が10割」ということです。「場所」という概念の解像度を高めると、次の4つの要素に分解できます(図1)。

  • LOCATION(どこに設置されているのか)
  • COMMUNITY(どんな属性の人がいるか)
  • VISIBILITY(どんな視認性か)
  • FREQUENCY(どのくらいの時間、どの程度)
図1
図1

 見られやすい場所に設置していること、視認性が良いこと、広告主のターゲットとする属性にマッチした人が多くいること、そうした人々が一定の時間滞在し、高い頻度で訪れること。この4つの要素を満たすことが、デジタルサイネージ広告事業を成功させるための条件となります。

美容室向けデジタルサイネージ広告事業から撤退した理由

 私たちも最初からこの4つの要素が分かっていたわけではありません。「良い場所」とは何かを改めて深く考えるきっかけとなったのは「THE TOKYO SALON VISION COVER」(COVER)の取り組みです。

 COVERは、ニューステクノロジーが2020年から展開していた、高級ヘアサロン限定のデジタルサイネージメディアです。残念ながら事業拡大の見込みが立たず、2023年に撤退することを決断しました。事業を開始した当初、都内の高級サロンがデジタルサイネージ広告事業に適していると判断したのは、この4つの条件を満たしていると考えたからです(図2)。

図2
図2

 しかし、実際に事業を始めてみると、FREQUENCYの領域で当初の目論見とは異なる問題があることが分かりました。多くの人は、そこまで高い頻度で美容室に行きません。男性で2週間~1カ月に1回、女性で2カ月~数カ月に1回程度でしょう。

 滞在時間の長さもデジタルサイネージ広告には適していませんでした。1回当たりの平均滞在時間は120分。これだけの長い時間を身動きがとれない状態で過ごすという環境は、広告視聴の面では理想的ではないかと考えていたのですが、実際に運用してみると長すぎたのです。

 デジタルサイネージのコンテンツや広告だけで手持ち無沙汰を解消できるのは、おそらく20~30分程度。お客さまはある程度眺めたら、あとは自分のスマートフォンやタブレットで好きなコンテンツを見て時間を過ごすことが多かったようです。

 つまり、LOCATION・COMMUNITY・VISIBILITYは良かったものの、FREQUENCYが条件に合致していなかった。これが都内高級サロン向けデジタルサイネージ広告事業から撤退した理由です。これに対して、現在も満稿状態が続いているタクシーサイネージ広告事業の4つの要素は、図3の通りです。

 この4つの要素を全て満たす場所こそが、デジタルサイネージ広告事業でマネタイズするための必要条件です。それを明確に意識できたことが、COVER事業撤退から得られた収穫でした。

図3
図3

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