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「中核ビジネスと新規領域の両輪でV字成長を達成したい」--F5大野社長

國谷武史 (編集部)

2024-02-02 06:00

 2023年4月にF5ネットワークスジャパン(F5)のカントリーマネージャーに就任した大野欽司氏は、2023年のビジネスを「厳しいものだった」と振り返る。2024年は、「BIG-IP」などの中核事業と新規領域に位置付けるウェブアプリケーションインフラのソリューションにより同社の成長をドライブさせる戦略を推進する。同氏に取り組みを聞いた。

 大野氏は、以前にブロケード コミュニケーションズ システムズやエクストリームネットワークスで要職を歴任するなど、通信やネットワークのビジネスで20年以上の経験を持つ。

F5ネットワークスジャパン カントリーマネージャーの大野欽司氏
F5ネットワークスジャパン カントリーマネージャーの大野欽司氏

 2023年のビジネス状況は、米国経済の停滞などに伴う世界的な企業のIT投資の抑制や、主要顧客である通信業界の5G投資の伸び悩み、近年の地政学的リスクの高まりに備える企業の戦略などの影響を受けた。就任後しばらくは、どうビジネスを取り戻すかが課題になったそうだ。「コロナ禍にリモートでのコミュニケーションとなったことで、お客さまやパートナーとの距離が開いてしまった感もある。もう一度しっかりとF5の姿を発信することから始めたい」と話す。

 グローバルでは2022年に、中核のネットワーク機器ビジネスから、ウェブアプリケーション領域にフォーカスしたソフトウェア製品やセキュリティなどのサービスを中心とするビジネスへの変革を打ち出した。最高経営責任者(CEO)のFrancois Locoh-Donou氏は、2023年のZDNET Japanとのインタビューで、ソフトウェア製品の売り上げ構成比が50%を超えたと述べている。

 同社ビジネスの変革に対する日本の状況について大野氏は、「グローバルに比べると、本格的な取り組みを開始した段階にある。誤解しないでいただきたいのは、F5が今まで強みとしたADCなどのハードウェアビジネスを止め、新領域のソフトウェア企業に転身するというわけではないこと。従来の中核領域のお客さまやパートナーを大事にする。その上で新領域でのビジネスにより全社の成長を伸ばしていくことになる」と説明する。

 同社の代名詞とも言えるBIG-IPは、アプリケーション配信コントローラー(ADC)やロードバランサー(LB)、分散型サービス妨害攻撃防御(DDoS対策)、認証などの機能を備えるネットワークインフラ製品で、大手の通信や金融、製造などのエンタープライズ顧客に長年導入されてきた。

 一方で、ITインフラのクラウド化も次第に進み、オンプレミスのネットワーク機器市場は安定化してきている。このためF5は、これらネットワーク製品の機能をソフトウェア製品化したり、合併・買収などを通じてセキュリティやSaaSのラインアップを強化したりすることにより、2022年からSaaSプラットフォーム「F5 Distributed Cloud Services」を展開するほか、オープンソースのウェブサーバーソフトとして人気の「NGINX」の買収によるウェブアプリケーションインフラのビジネスの拡充などに取り組む。

 「グローバルでは一気にクラウドへ移行する動きが見られたが、(昨今の経済情勢を受けて)オンプレミスに回帰する動きが一定程度見られる。日本は、本格的にクラウドへ向かう前に現状を迎えたため、オンプレミスで維持すべきもの、クラウドを活用していくものを適材適所で組み合わせる選択になっている。やはりハイブリッド/マルチクラウドが現実的だといえる」(大野氏)

 こうした経緯や市場の状況を踏まえて大野氏は、2024年のビジネスにさまざまな展望を抱いている。注力するのは、BIG-IPなどの中核製品、新領域のF5 Distributed Cloud Services、NGINXなどのウェブアプリケーションインフラ製品になるという。

 「BIG-IPは、2023年に新世代へ移行し、2024年はお客さまでの“テクノロジーリフレッシュ”を推進する。単にハードウェアが変わるだけでなく、強化されたソフトウェアをさらに活用するあるいはSaaS版で利用することもでき、ハイブリッド環境でより柔軟に活用できるようになっていく」(大野氏)

 F5 Distributed Cloud Servicesでは、アプリケーション視点によるマルチクラウド接続に対応したネットワークおよびセキュリティの包括的な機能のメリットを訴求する。特にニーズの高いウェブアプリケーションファイアウォール(WAF)や、企業利用が増えつつあるAPI保護(APIセキュリティ)に注力するという。

 NGINXなどの製品では、同社によるエンタープライズサポートを強化する。ユーザーの多くはオープンソース版だが、ユーザーの高まりに応じてミッションクリティカル性も高まりつつあるといい、商用版を含めた同社によるサポートの安心感などをユーザーに浸透させたい考えだ。

 大野氏によれば、上述のように今後エンタープライズ顧客の多くがハイブリッド/マルチクラウドを選択していく中で、F5のこれまでの中核製品と新規領域のソリューションを顧客ニーズに合わせて提供できる点が強みになる。「MEC(マルチアクセスエッジコンピューティング)や5G Core(5G基幹網)、CDN(コンテンツ配信網)など通信業界もクラウドを積極的に取り入れつつあり、中期的にはAPIの利用が拡大し、そこではAPIセキュリティが求められてくる」(大野氏)

 ただ、SaaS型のセキュリティサービスでは、WAFやDDoS対策など機能単体で見ると、国内外に競合のサービスが多く存在する。また、NGINXなどのユーザーは中堅・中小企業が多いという。これまでF5は、こうした顧客層へ十分にリーチできていなかったという。

 大野氏は、まずエンタープライズ顧客やパートナーとは、「パートナーハイタッチ」と呼ぶ取り組みを強化しているという。顧客と直接相対するパートナーの営業担当者を含めたコミュニケーションをより深めて“いまのF5の姿”を理解してもらい、顧客にもそれを伝えて浸透を図っていく。「私は長らくネットワークのビジネスをしているが、F5のパートナーはとても熱心で、長い関係を続けていると感じた。F5がいま取り組んでいることをもう一度しっかりとお伝えしていくことがとても重要になる」(大野氏)

 中堅・中小企業顧客の拡大に向けては、さまざまな施策を準備しているとのこと。「1つにはマネージドサービス事業者とのパートナーシップを強化し、パートナープログラムやインセンティブなどを整え、顧客への認知浸透を図っていきたい。確かに市場での競合は多いが、われわれの各種サービスには競争力がある。“Born in the Cloud”の新しい勢いのあるユーザーにも注目をいただいている」(大野氏)

 大野氏は、2024年に2023年の厳しいビジネスからの反転攻勢をかけていく方針だ。「2024年は2023年比で1.5倍、さらに2025年は2024年比の2倍というV字の成長を遂げたいと考えている」(大野氏)

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