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エッジとAI、プライベートなデータの活用に自信--日本に進出する欧州発のGcore

國谷武史 (編集部)

2023-09-21 06:00

 ルクセンブルクを本拠にネットワークサービスを手がけるGcoreは、6月に日本法人を設立し、日本市場への本格参入を表明した。最高経営責任者(CEO)のAndre Reitenbach氏と最高収益責任者(CRO)のFabrice Moizan氏が、同社の特色や日本での事業展開について説明した。

 同社は、オンラインゲームサービス事業者のWargamingから2014年に独立し、現在は世界12カ所に拠点を構える。高速応答が必須のオンラインゲームのインフラとなるコンテンツ配信ネットワーク(CDN)やクラウドコンピューティングを手掛けてきた実績から、特に低遅延が求められるサービスに強みがあるとし、近年はエッジコンピューティングやAIのサービス拡大に注力しているという。

Gcore 最高経営責任者のAndre Reitenbach氏(左)と最高収益責任者のFabrice Moizan氏
Gcore 最高経営責任者のAndre Reitenbach氏(左)と最高収益責任者のFabrice Moizan氏

 同社のネットワークサービスへの接続拠点(PoP)は世界28カ国・150カ所以上あり、日本では東京と大阪に開設済み。近く福岡にもPoPを開設する。コアネットワークの帯域は約10Tbpsとし、遅延(レイテンシー)は平均30ミリ秒とする。「これはインフラが未成熟な地域を含めた平均値であり、日本は10ミリ秒以下になる」(Reitenbach氏)

 同社が注力分野に掲げるエッジコンピューティングやAIは、世界的にも今後の市場拡大が大いに期待され、一説には2026年に1000億ドル(約14.7兆円)規模が予想されている。同社は、特に双方を組み合わせる「エッジAI」に着目しているとし、NVIDIAの「A100」「H100」などによるコンピューティングスタック「PRIVATE CONVERGED EDGE AI」もラインアップする。2024年には、NVIDIAの「L40S」もグローバル展開するという。

 CROのMoizan氏は、以前にNVIDIAで欧州地域の高性能コンピューティングインフラの整備に携わり、AIチップベンダーのGraphcoreを経て、エッジコンピューティングやAIの普及を目指すべくGcoreに参画したという。「『ChatGPT』が人気を博したように、エッジAIの推論処理が世界中で求められている。AI開発者は柔軟性とアクセス性、拡張性を求めており、コスト面も含めて、これらのニーズにはエッジとクラウドの活用が鍵になる」(Moizan氏)

 エッジコンピューティングやAI関連のクラウドサービスでは、米国のIT大手各社が存在感を高めつつある。日本での事業展開についてReitenbach氏は、「確かに彼ら(米国のIT企業)を含め競合が世界中にいるが、われわれは各地の市場で競合に勝ち、案件を獲得している。日本ではしっかりと地域に密着したアプローチが大切だと考え、日本法人を設立した」と話す。

 Gcoreもハイパースケーラーと同様にIaaSやPaaSなどのクラウドサービスを取りそろえ、それらに、低遅延なエッジコンピューティングとAIのプラットフォームを有する点や、データ保護、プライバシーの取り組みが先行する欧州を拠点としていることも強みになるようだ。

 「私自身のキャリアもそうだが、われわれは既に大規模言語モデル開発のためのGPUクラスターを提供しており、競合のCDNベンダーに関しては、AIではそれほど知見に強みがあるとは感じられない」(Moizan氏)

 「多くの顧客はクラウドでもCDNでもマルチベンダーの戦略を採用している。特に知的財産などのデータを活用するために、データの主権を担保できる『ソブリンクラウド』などのプライベートソリューションを期待しており、われわれの役割を果たすことができる。米国ベンダーへの依存リスクを考慮する向きもあり、特に通信事業者は彼らがライバルになると見て、われわれと連携して動いている」(Reitenbach氏)

Gcoreが注力するエッジAIの用途
Gcoreが注力するエッジAIの用途

 Reitenbach氏は、日本市場で期待するエッジAIの用途に、製造ではロボット、自動車ではコネクテッドカー、医療では遠隔手術、金融や流通では仮想アシスタントなどを挙げる。低遅延を強みとしていることで、エッジとクラウドを組み合わせながら、AIによる推論を生かした高速応答やユーザーに適した情報の提供などが可能であり、使用リソースに応じた最適なコストモデルを提供できる点も強みだとする。

 現在のエッジAIの主な用途は、現場で発生したデータの高度な解析処理などを現場に近いコンピューティング環境で実行するものになるだろう。ロボットや自動車の制御といったリアルタイム処理が要求される用途になると、クラウドと接続する仕組みではまだ遅延がボトルネックなり、実現が難しいとされる。

 これについてReitenbach氏は、「アプリケーションによって、さらなる低遅延を実現していくことが求められているのは認識している。今後より多くのデータがエッジ側で処理されるようになることから、例えば、通信事業者とより緊密に連携して、5Gの基地局でエッジAIの機能を実行するようなことが考えられるだろう」と話す。

 日本をエッジコンピューティングやAIのモデル市場と見るITベンダーは多く、日本でのビジネスが将来のグローバルビジネスの試金石になると考えるようだ。「われわれにとって日本は、これらの分野において、とてもイノベーティブな市場だと捉えている、これからの事業展開にしっかり臨んでいく所存だ」(Reitenbach氏)

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