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データ活用がもたらす未来が危機にある--“Hadoop産みの親”のカッティング氏

國谷武史 (編集部)

2018-05-24 06:00

 ビッグデータ技術の進化によって、現在ではさまざまな種類のデータが活用されるようになったが、個人の情報やプライバシーが侵害されるリスクも高まっている。ビッグデータの分散処理技術「Hadoop」などの産みの親として知られるCloudera チーフアーキテクトのDoug Cutting氏は、「いま、データ活用がもたらす明るい未来が左右されかねない正念場を迎えている。企業や業界が主導して正しいデータの利用や管理の秩序を作らなければならない」と提起する。


Cloudera チーフアーキテクトのDoug Cutting氏。Hadoopをはじめ、LuceneやNutchなど数多くのオープンソースプロジェクトをリードし、Apache Software Foundationの会長も務めた

 Cutting氏は、何年も前からこの提起を行ってきたというが、5月25日に欧州で「一般データ保護規則(GDPR)」が施行されることや、3月にデータ分析企業の英Cambridge Analyticaが多数のFacebookユーザーの個人情報を不正利用していた事件が起きたことで、企業などの個人データ利用に対する関心が高まり、改めて呼び掛けるようになった。

 「小説や映画の世界でデータを悪用するシナリオが定番のように描かれているが、現実には規制されるものだ。しかしITやデータの世界はまだ歴史が浅く、これまで本格的に規制されてこなかった。これから規制が強化されていくし、今はその方向性を決定付ける時期にある。他の世界に学べば、規制の方向性がいったん決まると、今後100年にわたって維持されていくし、それが確立されたら変えるのは不可能に近い」

 これまでのITシステムが扱うビッグデータは、主に売上や在庫といった企業の財務や業務に関する情報であり、それらに対しては国際会計基準などの業界規制が既に導入されていると、Cutting氏は指摘する。個人データに関しても、診療記録といった特定分野については国や地域ごとに厳しい規制が導入されているが、例えば、SNS上で人工知能(AI)を用いて個人の嗜好に応じた商材を提案する、といった一般的なビジネス利用を含む広い範囲でのデータやテクノロジの利用を対象にする厳しい規制はなく、GDPRや日本で2017年に施行された改正個人情報保護法など、ここ数年で急に広がり始めた動きだという。

 「国家あるいは国際規模の規制は、取り組み自体は長い時間をかけて進められるものの、内容は往々にして非常に厳しい。それによってデータの利用が停滞すれば、教育格差を是正したり、あるいは難病を克服したりするといったデータ活用がもたらすさまざまな可能性が閉ざされかねない」

 もちろんGDPRなどの規制では、その理念において個人のデータやプライバシーの厳格な保護と同時に、適切な対応を通じてデータの円滑な流通や活用の促進を掲げている。とはいえ、違反組織に対する巨額の制裁金といった罰則面がクローズアップされやすく、企業や組織が罰則を恐れてデータの活用に及び腰になってしまうというのが、Cutting氏の懸念だ。

 Cutting氏はGDPRが、国際的な規制が個人データの利用の将来に及ぼす影響を見極める試金石になるだろうと話す。しかし、その結果を待っている間に、国家あるいは国際規模の規制によるデータ利用の方向性が決定されてしまいかねず、それよりも先に企業や組織が主体的に適切なデータの利用と管理のあり方を形作るべきだというのが、冒頭に挙げたCutting氏の提起になる。

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