「ひとり情シス」の本当のところ

第57回:経理システムに触れないひとり情シス

清水博 (ひとり情シス協会)

2022-10-20 07:00

ひとり情シスの半数以上が経理システムに関与していない

 中堅中小企業のIT担当の方々によると、半数以上が社内の経理/会計システムや、統合基幹業務システム(ERP)などの基幹システムには関与していないそうです。それらのシステムを稼働させているサーバーやクラウドなどのインフラ環境はもちろん、依頼するベンダー選定にも関与していないことが多いようです。

 情シスとは情報システム部門の略称ですから、社内のIT機器や業務システムに関するもの全てを管理するのが組織のミッション(使命)です。しかし、中堅中小企業の情シスの場合は少し異なります。情報システム部門の広範な業務を1人で担当するひとり情シスが多く、PCのサポート業務をメインにITベンダーへの取次なども対応する「ひとりヘルプデスク」状態も少なくありません。

経営トップが基幹システムを決定するのか?

 昨今、経営者がIT活用を率先することがとても重要だと誰もが認識していますが、リーダーシップがあまりに強すぎると弊害も出てきます。昔からIT業界では、社長を招待して高原のロッジなどでセミナーを行い、激動の世の中におけるITの重要性を缶詰状態で説きます。これは1970年代頃のオフコン(オフィスコンピューター)を販売していた時から取られた手法であり、会社の意思決定者である社長に直接購買を促すものです。

 今でもこの流れが続いている部分があります。良い方向に進むのであれば問題ありませんが、システム選定にIT担当者が関与していない状態では、後でいろいろなトラブルにつながる恐れがあります。どう見ても古いアーキテクチャーのシステム設計を提案されたり、既存システムとの親和性が著しく低かったり、仕様検討の準備や期間が甘かったりなど、今後のトラブルが予見されるような事柄が多くあります。

 情シスはそれまで蚊帳の外だったこともあり、経営層にいきなり意見するのも気が引けるため、見て見ぬふりすることも多いかもしれません。しかし、プロジェクトの進行が予定より遅れたり、希望する機能が実装されなかったりすると、突然IT担当者が尻拭いさせられることがあります。

「石の上にも三年」とは言わないが……

 中堅中小企業であっても参謀格に位置付けられているひとり情シスの方々は、経理/会計システムや基幹システムにも関与しています。極端なことを言えば、彼らは社員の給与をいつでも確認できる立場になっています。しかし、その立場にたどり着くまでは、PC関連のサポートを中心にしたひとりヘルプデスクとして奔走してきたそうです。そして、経営層を相手に、基幹システムの問題点を何度も指摘したり、ビジネスに役立つデータを提供したりして、徐々に信頼関係を積み上げていきました。

 中堅中小企業においても社員の定着は長年の課題です。情シス担当者が辞めてしまうことも問題となっています。そのため、企業も採用活動を慎重に行い、細心の注意を払って社員の定着を期待しています。経営層は、新しいIT担当者にERPをはじめとする企業の重要な業務を担うシステムにも早く関わってほしいと思いつつも、会社の風土になじむまで社内の重要なデータにアクセスさせるのは気が引けると言います。経営層とIT担当者が対話などを通じで良好な関係を築いていってもらいたいと思います。

 「石の上にも三年」の意味を「冷たく固い石の上で我慢せよ」と文字通り受け取ると、全く時代にそぐわないものです。単なる我慢に徹するのではなく、ユーザー部門のITリテラシーを高めたり、社内のIT環境を整えたり、自身に足りないスキルを身に付けたりといった意味合いで考えると、むしろ3年間では短すぎるのではないでしょうか。

清水博
清水博(しみず・ひろし)
一般社団法人 ひとり情シス協会
早稲田大学、オクラホマ市大学でMBA(経営学修士)修了。横河ヒューレット・パッカード入社後、日本ヒューレット・パッカードに約20年間在籍し、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス)におけるセールス&マーケティング業務に携わり、米ヒューレット・パッカード・アジア太平洋本部のディレクターを歴任、ビジネスPC事業本部長。2015年にデルに入社。上席執行役員。パートナーの立ち上げに関わるマーケティングを手掛けた後、日本法人として全社のマーケティングを統括。中堅企業をターゲットにしたビジネスを倍増させ世界トップの部門となる。アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。2020年定年退職後、会社代表、社団法人代表理事、企業顧問、大学・ビジネススクールでの講師などに従事。「ひとり情シス」(東洋経済新報社)、「ひとり情シス列伝」(ひとり情シス協会出版)の著書のほか、ひとり情シス、デジタルトランスフォーメーション関連記事の連載多数。産学連携として、近畿大学CIO養成講座、関西学院大学ミニMBAコース、大阪府工業協会ひとり情シス大学1日コースを主宰。

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